自分はいつも寝不足だけど、みんなどれくらい寝ているの?
困ってはいないのかな?
そんな疑問をもつ方は少なくないかもしれません。
今回のコラムでは、過去から現代にいたる、世界の睡眠事情をのぞいてみたいと思います。
2021年の経済協力開発機構(OECD)の調査 1 によれば、
日本人の1日の平均睡眠時間は7時間22分と加盟30か国中最下位でした。
さらに厚労省のデータ 2 を見ると、7時間以下の方が67%を占めています。
さらに9~18歳で欧米と日本を比較すると、1~2時間ほど睡眠時間が少ないというデータもあり、
日本は世界の中でも睡眠不足の国、特にこどもたちの睡眠が少ない国と考えられています。
2022年11月には、超党派による睡眠議連が設立されたと報道されました。
日本においても、ようやく睡眠の重要性が再認識されてきたと同時に、国としての具体的な対策が進むことが期待されています。
睡眠には謎が多く残されています。
眠るという行為は、動物にとってはまったくの無防備となり、とても危険な時間帯ともいえます。
それなのに、神経系を持つすべての動物は眠ります。
それほどに睡眠が大切である、とも言い換えられます。
現在では、症状としての不眠だけでなく、睡眠自体が世界中で研究対象となっていて、
睡眠と覚醒のスイッチ機能に関わる物質オレキシンの発見や、
各種活動や睡眠に関わる体内時計の研究がノーベル賞を受賞するなど、
少しずつ睡眠の謎が解明されつつあります。
温故知新。
江戸時代の家庭医学書に『病家須知』3 を見てみると、そこにも睡眠への指南が書かれています。
眠いのを我慢すること
寝すぎること
昼寝をすること
腹いっぱい食べて寝ること
酒を飲んで寝ること
これらは慎むべきであるとされています。
さらに丹波康頼が編纂したとされる現存する日本最古の医学書『医心方』4 にも、不眠について触れられています。
古今東西、睡眠の悩みは尽きないようです。
一気にさかのぼること数千年前。
インド伝統医学 アーユルヴェーダにおいては、「健康、不健康は睡眠に依存している」として数千年も前から睡眠の大切さを説き5、不規則な睡眠、過眠、不眠を戒めていました。
すでに現代生活の問題点を指摘していたんですね。
また我慢してはいけない衝動の中に、あくび、疲労時のため息、大小便などとともに睡眠を挙げています。
一方で今や24時間ネットやスマホでつながることができる社会。
世界の睡眠時間は年々減少傾向にあります。
「寝ずにがんばること」が美徳とされた時代は移り変わり、「ちゃんと寝ること」
「質のいい睡眠をとること」で、生活の質や仕事の効率が上がり、健康寿命の延伸にもつながることは、今も昔も疑いの余地はありません。
不眠症といっても、寝付きにくい、夜中に目が覚める、朝早く起きてしまう、熟睡できていないなど、その内容も様々です。
これまでは睡眠の問題というと、睡眠時間が重視されていましたが、
最近では健康にとっては何時間寝たかということよりも朝起きたときに、
どれだけ体が休まったと感じたか、という「睡眠休養感」が重要であるといわれています。
実質的な睡眠時間は加齢とともに減ることがわかっていますが、
睡眠時間を確保するために眠くないのに床につくことで、かえって眠れないストレスを感じて、
睡眠の質を下げ、睡眠休養感を低下させてしまいます。
朝日を浴びて体内時計をリセット。
お昼は仮眠を取りすぎない。
夜はスマホから離れて、ぬるめのお湯でリラックス。
寝る前に好きな香りをかいで、首元・耳・足裏をマッサージ。
睡眠時間にはこだわらず、眠くなったらお布団へ。
こうした習慣を取り入れることで、起きたときのあなたの睡眠休養感が高まっていることでしょう。
きたにし耳鼻咽喉科 院長 医学博士
日本アーユルヴェーダ学会理事長
自身自医をモットーに、西洋医学に加え、補完医療・伝統医学を組み合わせた統合医療を実践。
著書に『耳鼻咽喉科医だからわかる意外な病気、治せる病気』 『「うるうる粘膜」で寿命が延びる!』 『慢性副鼻腔炎を自分で治す(つらい鼻づまりがスッキリ!)』『図解 自力で治す!慢性副鼻腔炎 アレルギー性鼻炎』などがある。