第3号【オンライン診療と睡眠時無呼吸症候群】

本年20246月の診療報酬改定により従来のCPAP治療における診療が大幅に緩和されました。本日はオンライン診療に特化して幅広い疾患の治療に取り組まれているウチカラクリニック院長の森勇磨先生にオンライン診療の上手な使い方やCPAP治療におけるオンライン診療の特徴、留意点などを幅広くお伺いしたいと思います。また最近一部の患者さんからニーズのあるCPAP治療における自費診療についてもお伺いしたいと思います。

前号オンライン診療・対面診療が適切な場面より続く

先ほど糖尿病や高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの慢性疾患のお話が出ましたが、これらは特にオンライン診療との親和性が高そうですね?

森先生

はい。疾患の重症度を早期に見極めることでオンライン診療との親和性も高いのではないかと思います。

特に複数の既往歴を持っている場合、それぞれの疾患の治療状況を鑑み治療計画を同時に立てることが重要です。糖尿病の患者さんなどでは、仕事や本人の意欲の関係で治療を離脱してしまい、血糖コントロールが悪化し、高血糖状態となり意識が低下、救急搬送という事例も珍しくはありませんので、オンライン診療でフォローアップの継続率を上げることは有用なことだと感じています。

インタビュアー

それは非常に重要ですね。しかし急性疾患でない性格上、これらの疾患を早期に治療を開始するための動機というか、そこには、通院の時間だったり、通院にかける労力の問題だったりと患者さん側のハードルがありそうですがいかがですか?

森先生

これまでは、CPAP治療に関しては少なくとも「3か月に1回の対面診療」が必須とされていました。

しかし今回の改定により、CPAP治療の数値が安定している患者さんに関してはオンライン診療で治療を完結することも可能になったのが大きな変更点です。

CPAP治療が軌道に乗り、安定した状態の患者さんにとっては特にオンライン診療は相性が良いですし、CPAP治療中も医療機関側で患者さんのCPAP治療の数値がリモートモニタリングできる点もオンライン診療との親和性が高いのではないでしょうか。


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インタビュアー

患者さんの状態次第では上手にオンライン診療を利用して通院にかかる時間や労力を抑えられるわけですね。オンライン診療においてCPAP治療の受診から治療の一般的な流れと費用について教えていただけますか?

森先生

まず、無呼吸症候群が疑われる患者さんには「簡易検査」を行います。

簡易検査は身体の中の酸素の程度を見るためにパルスオキシメーターという機器を指につけていただき、同時に気流センサーというものを鼻につけて無呼吸・低呼吸・いびき等、呼吸状態の変化を寝ている間に測定いたします。この検査は健康保険が適応され、費用は3割負担の場合で3000です。検査はご自宅にて一晩で完了します。

簡易検査で「AHI」*3と呼ばれる無呼吸/低呼吸の指標が明らかに高値、具体的にはAHI40以上の人は一般的には精密検査を行わずにCPAP治療に進みますが、それ未満の場合や、精密検査の希望がある場合は睡眠ポリソムノグラフィー検査(PSG検査)を実施します。この検査は簡易検査で装着するセンサーの他、いびき音や呼吸運動、体位を感知するセンサー、心電図等を装着し、夜間睡眠における変化を測定します。PSG検査は病院で12日の入院で行うと3割負担の場合で20,000~50,000円程度の費用がかかりますが、当院のようなオンライン診療を中心に行っている医療機関や入院施設を持たない医療機関などは、患者さんのご自宅などでこの検査を実施することも可能です。費用は3割負担の場合で12,000円程度です。

こういった最大2段階の検査の結果、睡眠時無呼吸症候群の診断となった患者さんがCPAP治療を行います。そして、対面診療にて数値の安定が確認できた後は、新制度(20246月施行診療報酬改定)ではオンライン診療での受診継続が可能となりました。CPAPの治療費用については毎月5,000円程度(3割負担の場合)で、対面診療とオンライン診療での大きな費用の差はありません。

インタビュアー

保険診療においてもオンライン診療が普及してくると患者さんの利便性はますます高まりますね。ところで、最近はオンライン診療にて自費診療のメニューを提供している医療機関をよく見かけますが、先生のところでも何か取り組まれていますか?

森先生

はい。現在、当院ではピルの処方と睡眠時無呼吸症候群の診療で自費診療にも対応しております。睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療では保険診療でカバーされない2台目のCPAP装置の処方や保険診療での処方の基準となるAHI20以上を満たさないものの患者さんがCPAP装置の購入を望まれている場合に適切な診断のもと、処方を検討するケースがあります。

インタビュアー

保険診療下でCPAP装置をレンタルされている患者さんが出張用として2台目の装置を自費で購入したいというケースや保険診療下でCPAP装置のレンタルの対象とならないAHI 20未満の患者さんから購入のご相談を受けるケースがあると伺います。先生のところではそのような相談はございますか?

森先生

はい。確かにありますね。患者さんの重症度や条件によってはCPAP装置や、口腔装置*4などの治療器具等は保険診療の対象外となることがあります。これは睡眠検査の結果、保険診療の条件を満たさない場合、あるいは出張用などで2台目のCPAP装置を別に必要としているときなどです。このような場合に患者さんは自費でこれらの装置を購入され治療を希望されるケースがあります。当院では保険診療として治療が実施できない場合は患者さんのご希望を伺いながら医学的見地も踏まえ、CPAPを購入するために必要となる処方箋の発行や治療開始後のコンサルテーションも提供させていただいております。特に当院では既に保険診療でCPAPのレンタルをされている患者さんの中で、出張用として2台目を自費で購入したいというご相談はよくあります。また保険診療の対象とはならないAHI 20未満の患者さんが当院にご相談いただく事例として、海外で長らく生活されていてCPAPを使用されていた患者さんが生活の拠点を日本に移す際、睡眠検査では保険診療とはならないまでもCPAP治療を継続したいという場合*5や、睡眠検査で保険診療とはならないまでも高血圧の既往歴があり、その観点からCPAP治療を早期に開始した方が良い場合*6女性の患者さんで睡眠検査では保険診療とはならないまでもCPAP治療を早期に検討した方が良い場合*7、などがあります。

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インタビュアー

AHI20未満の患者さんからのご相談もあるとのことですが、日本においては自費診療となるAHI20未満の患者さんへのCPAP処方について、どのようにお考えですか?

森先生

一般的には保険診療か自費診療かという観点で申し上げれば、もちろん保険診療の対象となるAHI20以上の患者さんへの治療が優先して考慮されるべきです。しかしながら睡眠時無呼吸症候群の症状は無呼吸・低呼吸といった呼吸イベント*8のみで評価できない部分もあります。例えば、海外のいくつかの国においてはCPAP装置の処方が検討されるAHIの基準はわが国よりも低値です。国による制度の違いで保険診療の基準かそうでないかという違いがありますが、それをもって治療が必要か不要かということと決して同じことではありません。従いまして、患者さんが睡眠時無呼吸の症状があり、日常生活に弊害が出ている場合などはCPAP治療を行うことがご本人のQOLの向上に寄与するのであれば、保険診療にはならない患者さんへのCPAP装置の処方も検討して良いと考えます。

インタビュアー

例えばいまお話しいただいたような患者さんが自費でCPAP装置を購入された場合ですが、この場合でも継続して通院あるいはオンライン受診をする必要はありますか?

森先生

基本的には、安定していたとしても詳細な呼吸イベント数や呼吸状態に基づく判断は医療機関でしか行えませんので、継続の受診は推奨されます

頻度に関しては治療開始時期や、患者さんの治療状況に応じて例えば3か月、あるいは6か月に1回などにしても良いでしょう。まずは治療と評価を適切に行い、呼吸イベント数も下がり、呼吸状態が安定していると医師が判断する患者さんであれば、オンライン診療によってフォローアップが実施可能であるとは言えるでしょう。

 

5D3L3537f森 勇磨 (もり ゆうま)先生

内科医/産業医/労働衛生コンサルタント

ウチカラクリニック代表

Preventive Room株式会社代表

予防医学ch/医師監修 管理人



*3 AHI:AHIは、1時間あたりに発生する無呼吸および低呼吸の合計回数を表します。無呼吸とは、10秒以上の完全な呼吸停止を意味し、低呼吸とは、10秒以上にわたって呼吸気流が50%以上減少することを意味します。なお。AHIの値は、以下のように分類されています。正常: AHI < 5 軽度: 5 ≤ AHI < 15 中等度: 15 ≤ AHI < 30 重度: AHI ≥ 30

*4 口腔装置:睡眠時無呼吸症候群(SAS)に対する口腔装置は、患者さんが睡眠中に装着することで気道を開放し、無呼吸や低呼吸のイベントを減少させるためのデバイスです。これらの装置は、一般的に軽度から中等度のSAS患者さんや、CPAP治療によるマスクを使用できない患者さんに適しているといわれています。

*5 海外で長らく生活されていてCPAPを使用されていた患者さんが生活の拠点を日本に移す際、睡眠検査では保険診療とはならないまで 
 もCPAP治療を継続したいという場合:米国でのCPAP治療の適用基準は、医療機関または自宅での睡眠呼吸検査の結果、AHIが15以
 上、あるいは5~14でも日中の過度の眠気、高血圧、心臓病などの症状があることを求めています。 (睡眠障害国際分類第3版によ
 る閉塞性睡眠時無呼吸症の新たな診断基準の検討https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/29/2/29_201/_pdf/-char/ja

*6 睡眠検査で保険診療とはならないまでも高血圧の既往歴があり、その観点からCPAP治療を早期に開始した方が良い場合:高血圧の既往がある患者さんにおいて、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は高血圧の悪化要因と考えられており、適切な治療を早期に行うことで高血
圧の管理やその他の健康リスクの軽減が期待されると考えられています。
また、CPAP治療は、睡眠中の無呼吸や低呼吸を防ぐことで、夜間の血圧変動を減少させ、全体的な血圧を下げる効果があります。複
数の研究で、CPAP治療が収縮期および拡張期血圧を低下させることが示されています。Peppard PE et al. N Engl J Med. 2000、Lavie P et al. BMJ. 2000、Nieto FJ, Young TB et al. JAMA. 2000、Bixler EO, Vgontzas AN at al. Arch Intern Med. 2000、Marin JM et al. JAMA. 2012

*7 女性の患者さんで睡眠検査では保険診療とはならないまでもCPAP治療を早期に検討した方が良い場合:女性の睡眠時無呼吸症候群 
 (SAS)は、男性ほど明確な呼吸イベント(無呼吸や低呼吸)の数が少ない場合があります。このため、AHIが低めに出ることがあ
 り、軽度と判断されることがあります。女 性 の 閉 塞性 睡 眠 時 無 呼 吸症 候 群 の 臨床 的検 討 坂本 菊男 ・菊池 淳 ・高根 陽子 ・中島 格 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/99/2/99_2_133/_pdf

*8 呼吸イベント:「呼吸イベント」とは、睡眠中に発生する異常な呼吸パターンを指し、これには無呼吸と低呼吸が含まれます。これら
 のイベントは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断と評価において重要な指標となります。

 

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